樋口一葉歌集
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あはれいかに 今年の秋は 身に染まむ 住みも習はぬ 宿の夕風
いづれぞや 憂きにえ耐へで 入りそむる 深山の奥と 塵の中とは
世の中は いづこかさして 宿ならむ 行きどまるをぞ 限りと思はむ
たづぬべき 君ならませば 告げてまし 入りぬる山の 名をばそれとも
人知らぬ 花もこそ咲け いざさらば なほ分け入らむ 春の山道
わたつみの 沖に浮かべる 大船の いづこまで行く 思ひなるらむ
雲迷ふ 夕べの空に 月はあれど おぼつかなしや 道暗くして
心無き 門田の鳴子 吹く風に 驚かさるる 鳥もありけり
伏しながら 聞きしはいつぞ 朝市の たちゐ苦しき 春雨の空
春雨の 音を枕に 聞く夜半ぞ 昔の花の 夢は見えける
あづさゆみ やよ春雨に もの言はむ めぐむは露の 草木ばかりか
春雨の ふる物がたり 聞かせてむ 小窓まで来よ 庭の鶯
